こんにちは、ここあです。
本日は、事業活動収支計算書等の財務計算書類に用いられている科目について解説するとともに、各学校法人の財務分析に役立つ指標をご紹介いたします。
概要編はこちらで紹介しておりますので、併せてご覧ください。
収入科目内訳
まずは、収入の部における科目について解説します。
学生生徒等納付金
学生や生徒から納付される授業料や入学金、施設設備費といった、学則や募集要項に記載された納付金を学生生徒等納付金として計上します。多くの学校法人において学生生徒等納付金が収入の大きな割合を占めており、平均で学校法人の収入の約70%以上を占めると言われています。
手数料
主に入学検定料(受験料)です。その他には、追試験等のために徴収する試験料収入や在学証明書や成績証明書と各種証明書を発行するために徴収する証明手数料収入も手数料に当てはまります。
寄付金
創立記念募金や同窓会組織からの寄付、子会社等からの寄付を寄付金として計上します。
寄付金には、寄付者が寄付の使用用途を特定する特別寄付金と、特定しない一般寄付金があります。また、現金を伴わない物品(蔵書や備品等)の寄付については、現物寄付金と呼びます。
最近では、クラウドファンディングにより研究経費を調達する大学等も現れています。
経常費等補助金
国や地方公共団体から交付された補助金の収入を経常費等補助金として計上します。私立大学等経常費補助金のほか、学校種別ごとの経常費補助金等があります。大学においては、高等教育の修学支援制度における授業料等減免費交付金も補助金に含まれます。
付随事業収入
収益を目的とせず、学校教育の一環として行われる事業で得た収入を付随事業収入として計上します。
それぞれ、食堂や売店、学生寮といった教育活動に付随する活動に係る収入を補助活動収入、病院や農場、研究所といった附属機関の収入を附属事業収入、外部から委託を受けた試験や研究による収入を受託事業収入と呼びます。
雑収入
学校法人の施設設備貸出料(利用料)や廃品売却による収入を雑収入として計上します。
受取利息・配当金
資産運用等の利回りや配当金による収入を受取利息・配当金として計上します。
18歳人口減少に伴う受験料収入等の減少を背景に、効率的な運用収益の向上などが学校法人の経営課題の一つとして位置づけられている実態があるため、重要な収入源としての役割を担っています。
資産売却差額
施設設備や有価証券等の売却による収入を資産売却差額として計上します。
支出科目内訳
続いて、支出の部における科目について解説します。
人件費
雇用関係にある教職員の給与や通勤手当といった各種手当を人件費として計上します。
直接雇用の関係にない派遣教職員等は、学校法人との雇用関係にないため、人件費ではなく経費として扱います。顧問弁護士等に支払う報酬は管理経費として扱います。
役員(理事及び監事)への報酬については、役員報酬として人件費に含めます。ただし、評議員への報酬は管理経費として扱います。
退職金も人件費として扱いますが、退職金を支払うための準備として積み立てる退職金引当特定資産は人件費ではなく固定資産のうちの特定資産として扱われます。
教育研究経費と管理経費
学校法人会計基準では、経費科目について教育研究経費と管理経費に区分することが求められています。これは、経常費補助金の助成対象が教育研究に使われる経費に限定されるため、教育研究経費と管理経費に区分する必要があるのです。
教育研究経費と管理経費の区分基準は、文部省管理局長通知により以下のとおり明示されています。
次の各項に該当することが明らかな経費は、これを管理経費とし、それ以外の経費については主たる使途に従って教育研究経費と管理経費のいずれかに含めるものとする。
文部省管理局長通知より
1.役員の行なう業務執行のために要する経費および評議員会のために要する経費
2.総務・人事・財務・経理その他これに準ずる法人業務に要する経費
3.教職員の福利厚生のための経費
4.教育研究活動以外に使用する施設、設備の修繕、維持、保全に要する経費(減価償却贅を含む。)
5.学生生徒等の募集のために要する経費
6.補助活動事業のうち食堂、売店のために要する経費
7.附属病院業務のうち教育研究業務以外の業務に要する経費
したがって、上記の管理経費以外については合理的な基準に基づいて按分されることになります。
例えば、光熱水費は、教育と事務室の人員費や面積比で按分します。また、学生募集にかかる経費(広告費、入学案内印刷費、通信費、旅費、入学願書の印刷費等)は管理経費ですが、入試そのものにかかる経費(会場賃借料や試験問題の印刷費)は教育研究経費となります。
借入金等利息
金融機関等からの借入金利息の支払いを借入金等利息として計上します。
資産処分差額
施設設備や有価証券等の売却による損失を資産処分差額として計上します。
その他の科目
最後に、収支の均衡状況等を確認する用語を解説します。
基本金組入前当年度収支差額
基本金を組み入れる前の単年度における事業活動全体の収支差額で、事業活動収入から事業活動支出を引いたものです。
この数値がプラス値であれば単年度の収支としては黒字(収入超過)となり、この数値がマイナス値であれば赤字(支出超過)となります。学校法人の経営状況を判断する重要な指標の一つです。
基本金組入額合計
基本金として組み入れる金額の合計です。第1号~第4号までの基本金組入額を合計した数値となります。
当年度収支差額
基本金組入前当年度収支差額から基本金組入額合計を引いた数値です。
経営状態が良好であっても、基本金組入額の影響でマイナスの収支差額(支出超過)となることも往々にしてあります。
教育施設の建設といった固定資産の取得については多額の資金が必要となりますので、計画的に第2号基本金を組み入れる必要があります。
前年度繰越収支差額
前年度より繰り越された収支差額の累計です。前年度までの学校法人の経営状況が分かります。
翌年度繰越収支差額
前年度繰越収支差額に当年度収支差額を加えた累計額です。年度末時点における学校法人の経営状況が分かります。
大学の財務分析
事業活動収支計算書等の数値から財務比率を計算し、経営状況や収入及び支出の構成を確認することができます。主な財務比率の中からいくつかを紹介します。
事業活動収支差額比率
計算式:基本金組入前当年度収支差額 ÷ 事業活動収入
「経営状況はどうか」という視点から、プラスが大きいほど自己資金が充実し、財政面での将来的な余裕に繋がります。私立大学の場合は平均値が5%前後で推移しておるため、10%に近い大学は安定した学校経営が見込めるでしょう。
人件費比率
計算式:人件費 ÷ 経常収入
人件費は学校における最大の支出要素であり、この比率が適正水準を超えると収支悪化の要因となります。人件費比率の平均値は50%前半であるため、60%に近い数値であると人件費の割合が高くなりすぎていることが分かります。
人件費の性格上、一旦上昇した人件費比率の低下を図ることは容易ではないため、人件費比率の推移を把握しておくことが、理事会等の大学執行部には求められています。
人件費には要注意!
教育研究費比率
計算式:教育研究費 ÷ 経常収入
教育にどれくらい資金を投入しているかが分かる指標です。教育研究費比率の平均値は30%前半であるため、教育研究費比率が20%台であれば教育に十分な資金が投入されておらず、人件費といった教育に関する経費以外に資金が流れていることになります。
「教育研究費比率30%超え」は教育に力を入れているかどうかの重要な指標となります!
学生生徒等納付金比率
計算式:学生生徒等納付金 ÷ 経常収入
学生生徒等納付金は補助金や寄付金等の他の収入と比べて外部要因に影響されること少ない重要な財源であることから、この比率が安定的に推移することが望ましいとされています。
一方で、学生生徒等納付金に依存しすぎないことも重要であるため、学生生徒等納付金比率は低い方が望ましいという考え方もあります。
学費以外の収入(補助金や寄付金)の重要性が近年より高まっています!
経常収支差額比率
計算式:経常収支差額 ÷ 経常収入
経常的な収支のバランスを表しており、経常収支差額比率のプラスが大きいほど経常的な収支は安定していることを示します。
おわりに
本日は学校法人会計に用いる用語等や各学校法人の財務分析に役立つ指標についてお伝えいたしました。
収入や支出については学校法人の規模によって大きく異なりますが、事業活動収支計算書等の数値から財務比率を計算することにより、他法人との比較が容易になります。
同規模大学や周辺の大学を財務分析してみると、自大学の特徴が自ずと見えてくるはずです。
以上、お読みいただきありがとうございました!