こんにちは、ここあです。
本日は、私立学校の重要な収入の一つである「私立大学等経常費補助金」について解説していきます。
私立大学は何故補助金がもらえるの?
学費の金額や教職員の給与額を自由に決めることができるにも関わらず、なぜ私立大学は国から補助金を受け取ることができるのかご存知でしょうか。私学助成の成り立ちについては、文部科学省HPに以下のとおり示されています。
私学助成は、昭和45年度に私立大学等経常費補助金が創設され、私立大学等の人件費を含む教育研究に係る経常的経費に対する補助が開始されたこと、また高等学校以下の私立学校に対しても都道府県において経常費補助が行えるよう地方交付税により都道府県に対する財源措置が講じられるようになったことにより格段の充実が図られました。しかしながら、その後の物価の高騰や人件費の上昇による経常費の増大は、私学側の自主的努力による収入の伸びを上回り、私学財政は支出超過が増幅する方向にありました。また教育研究条件は、例えば私立大学でみると高等教育に対する国民の需要が急速に高まるなかで入学者の大半を受け入れざるをえなかったという事情もあり、いわゆる水増し率や教員1人当たり学生数でみた教育条件は国・公立学校と比較してなお相当な格差がありました。これらの事情を背景として、私学助成について法律の制定を求める声が高まり、昭和50年7月議員立法というかたちで私立学校振興助成法が成立し、昭和51年4月から施行されました。
文部科学省HP;私立学校振興助成法
このように、高等教育における私立学校の果たす重要な役割に鑑みて「私立学校振興助成法」が制定され、この法律を根拠として現在も私立大学は補助金という形で国による財政支援を受けることができるのです。
また、私立学校振興助成法では、国は大学等を設置する学校法人に対して、教育や研究に係る経常的経費のうち二分の一以内を補助することができると定められており、経常的経費の範囲、算定方法その他必要な事項については、私立大学等経常費補助金交付要綱等で定められています。
国公立大学と私立大学の教育格差を縮めるために、私立大学にも補助金が支給されているんだね!
私立大学等経常費補助金について
私立大学等経常費補助金は、私立大学等の教育条件の維持向上と学生の修学上の経済的負担の軽減を図り、私立大学等の経営の健全性を高めることを目的としており、文部科学省から私学事業団を経由して私立大学に交付されます。
補助金の内容としては、大学運営に不可欠な教育研究に係る経費を支援する「一般補助」と、改革に取り組む大学を支援するための「特別補助」に分類されています。
また、補助金が文部科学省から私学事業団を経由して私立大学に交付されることから、私立大学等経常費補助金は「間接補助」と呼ばれています。
「私立学校施設整備費補助金」「私立大学等研究設備整備費等補助金」等は文部科学省から直接私立大学に交付されることから、「直接補助」と呼ばれているよ。
一般補助について
一般補助は、大学等の運営に必要不可欠な教育研究に係る経常的経費について支援するものです。交付額の算定には、教育の質保証や経営強化に向けたメリハリのある配分基準が用いられ、毎年私学事業団が配分基準を変更しています。
特に、2018年度より導入された教育の質に関する調査票では項目は点数化されており、点数が高い(教育の質保証に積極的な)大学には補助金を手厚く配分され、点数が低い(教育の質が担保されていない)大学には補助金を減額する措置が取られるようになりました。
一般補助の調査票としては、
- 学生定員・現員調査票
- 収入支出調査票
- 役員報酬等調査票
- 留年者・長期長期履修学生調査票
- 非常勤教員調査票
- 退職金財団掛金支出調査票
- 情報の公開に関する調査票
- 学校法人経営状況調査票
- 教員経費に関する調査票
- 経済経費に関する調査票
- 専任教職員・非常勤教員福利厚生費調査票
- 研究旅費支出調査票
- 教育の質に係る客観的指標調査票
等があり、調査票の項目については例年大きく変更になることはありません。
上述の調査票から、「教員給与費」「職員給与費」「退職金財団掛金補助」「非常勤教員給与費」「教職員福利厚生費」「教育研究経常費(教員経費・学生経費)」「厚生補導費」「研究旅費」が算出され、補助金として各大学に支給されます。
特別補助について
特別補助は、日本社会が取り組んでいく課題を踏まえ、自らの特色を活かして改革に取り組む大学等を重点的に支援するものです。調査項目は例年変更されており、ひと昔前までは国際化に重点が充てられていましたが、最近は、「数理・データサイエンス・AI教育の充実」や「困窮学生に対する授業料減免等への支援」へと調査項目はシフトしています。
令和3年度の特別補助の調査項目としては、
- 地方に貢献する大学等への支援
- 新型コロナウイルス感染症対策支援
- 数理・データサイエンス・AI教育の充実
- 社会人の受入れ環境整備
- 大学等の国際交流の基盤整備
- 大学院等の機能の高度化
- 東日本大震災からの復興支援
- 私立大学等改革総合支援事業
等があります。
特別補助は、上述のとおり「日本社会が取り組んでいく課題を踏まえ、自らの特色を活かして改革に取り組む大学等を重点的に支援するもの」ですので、調査項目に該当する取り組みが実施されていなければ、補助金は支給されません。いわゆる、加点形式の補助金です。
改革総合支援事業について
私立大学等改革総合支援事業とは、「大学力」の向上のため、私立大学等が組織的・体系的に取り組む大学改革の基盤充実を図るため、経常費・施設費・設備費を一体として重点的に支援する事業です。平成25年度より始まり、特別補助に分類されています。支援対象校の選定には私立大学等改革総合支援事業調査票が用いられ、一定以上の点数を獲得した大学には一般補助及び特別補助が以下のとおり増額されます。
<一般補助>
「教員経費」「学生経費」の圧縮前額に一定割合(10%程度)を加算。ただし、1校あたりの増額できる額に上限を設ける。
<特別補助>
「私立大学等改革総合支援事業調査票」の回答内容をもとに点数化し、タイプ毎に表形式により増額。
大学の取組みが点数化されることや支給基準が明確であることから、大学業界から高評価を受けている補助事業です。(と、私学事業団の職員さんが言っていました。)
改革総合支援事業が始まった平成25年度の調査項目は、「建学の精神を生かした大学教育の質向上」、「特色を発揮し、地域の発展を重層的に支える大学づくり」、「産業界など多様な主体、国内外の大学等と連携した教育研究」でしたが、令和5年度はタイプ1「『Society5.0』の実現等に向けた特色ある教育の展開」、タイプ2「特色ある高度な研究の展開」、タイプ3「地域社会の発展への貢献」(地域連携型及びプラットフォーム型)、タイプ4「社会実装の推進」となっています。
以下、調査票の抜粋です。
このように、私立大学等経常費補助金は、各大学が要件を満たすかどうかをセルフチェックし、申請していく形になります。あくまでも自己申告制であり、申請のタイミングで根拠資料の提出等が求められるわけではありませんが、根拠資料に基づき客観的に説明ができるかどうかが大変重要になります。
得点形式で分かりやすいですね!
今後の私立大学等経常費補助金について
令和4年度の私立大学等経常費補助金は、一般補助が10億円増額、特別補助が10億円減額となり、一般補助へ予算がシフトされています。財務省は、限られた予算をいかに効果的に措置するか「メリハリある配分」と「定員未充足」を厳しく主張しているとのことで、生き残りをかけた私立大学同士の争いがより激しくなりそうです。
おわりに
本日は私立大学等経常費補助金についてお伝えしました。
補助金はあくまでも「公金(税金)」であり、補助を受ける以上は相応の責任が生じます。一般の職員であっても補助金の調査票に触れる機会は数多くあるので、補助金の調査票に回答する場合は、ミスのないよう細心の注意を払いましょう。
会計検査院の会計検査で100万円以上の補助金不正受給が指摘されると、要件の読み間違い等が原因であっても、補助金を不正受給した大学として大学名が公表されてしまいます。
以上、お読みいただきありがとうございました!