大学と生成AI:ChatGPT等の教学面における取扱いについて

業界研究
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こんにちは。ここあです。

本日は、令和5年7月13日付け事務連絡にて文部科学省より発出された「大学・高専における生成 AI の教学面の取扱いについて(周知)」を紹介するとともに、各大学が生成 AI の取扱いについてどのような方針を打ち出しているのかを見ていきます。
近年、ChatGPT に代表される高度な生成 AI が急速な広まりを見せており、私たちの日常生活をはじめ、大学教育においても影響を及ぼす域まで達しています。以下、生成 AI が教育活動に与える影響を理解するための第一歩として、ご一読いただければと思います!

ここあ
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ゆっくり学んでいきましょう!

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生成 AI とは

生成 AI とは、「ジェネレーティブAI(Generative AI)」とも呼ばれる人工知能の一種です。学習したデータからパターンやルールを抽出し、それをもとに新しいアウトプットを生み出すことを特徴としており、生成できるものは楽曲や画像、動画、プログラムのコード、文章など多岐にわたります。
OpenAI社が開発した対話型AIサービス『ChatGPT』はその代表で、与えられた問いに対して、人間のように自然なテキストで回答することが可能であり、従来のAIの識別や認識を超えて、学んだデータをもとに人間のように考えて計画し、自ら創造することができます

大学における生成 AI の教学面の取扱いについて

早速ですが、まずは文部科学省が発出した生成 AI の取扱いに関する内容を見ていきましょう。(引用先:<文部科学省HP>「大学・高専における生成 AI の教学面の取扱いについて(周知)」

本日は、実際に発出された文書を引用しつつ、重要なポイントを確認していきます。

生成 AI に関する動向

令和4年 11 月に OpenAI 社が公開した ChatGPT は、公開から2か月で月間ユーザーが1億人を突破し、また、文章のみならず画像や音声等の生成を行う AI も普及するなど、生成 AI の開発や利活用が急速に進展している。政府においては、これまで「人間中心の AI 社会原則」(平成 31 年3月 29 日統合イノベーション戦略推進会議決定)等により、AI に対する基本戦略・基本理念を明らかにしてきているほか、生成 AI の登場によって整理すべき当面の論点等について、本年5月 26日に AI 戦略会議において「AI に関する暫定的な論点整理」(以下「論点整理」という。)を取りまとめている。生成 AI を含む AI の利活用は、利便性や生産性の向上、さらには人間の様々な能力をさらに発揮することを可能とするなど、経済社会を前向きに変えるポテンシャルがある。一方で、AI の信頼性や誤用・悪用などの懸念やリスクも指摘されており、論点整理では、しっかりと懸念やリスクへの対応とバランスを取りながら進めていく必要があるとされている。

冒頭では、生成 AI に関する動向が述べられており、ChatGPT等の急速な拡大や生成 AI の活用における正負両面の影響に触れています。やはり前提として、生成 AI の光と影が強く意識されています。

大学における対応

教育分野においては、生成 AI を適切に利活用することで、学修効果が上がり、また教職員の業務効率化を図ることができるなどの効果が期待される反面、レポート等の作成に生成 AI のみが使われること等に対する懸念が指摘されている。こうした背景も踏まえ、多くの大学・高専では、既に生成 AI の教学面の取扱いに関する指針等の策定が進められている状況にある。大学・高専における生成 AI の教学面の取扱いについては、各大学・高専において、具体的に行われている教育の実態等に応じて対応を検討することが重要であり、学生や教職員に向けて適切に指針等を示すなどの対応を行うことが望ましい。その際、生成 AI に関しては今後も急速な進歩が続き、教学面への影響が変化することも想定されるため、継続的な状況把握に努め、技術の進展や指針等の運用状況などに応じ、対応を適宜見直していくことが重要である。

「大学・高専における生成 AI の教学面の取扱いについては、各大学・高専において、具体的に行われている教育の実態等に応じて対応を検討することが重要」とあるように、学校ごとの特性に応じた対応が必要との見解が示されています。

ここあ
ここあ

積極的に推すわけでもなく、否定するわけでもなく、明言を避けた表現ですね。

しかし、教育の実態に応じて対応を検討する必要があるという点は、まさにその通りです。生成 AI を自らの学びを深めるための武器とするのかカンニングのための道具とするのかは、大学の教育レベルにも大きく左右されそうです。また、大学が公表した方針についても、時代の変化に合わせて適宜見直しを行うことの重要性も示されています。

ここあ
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今後は学生や教職員のAIリテラシーなるものが重要になりますね!

利活用可否の検討、利活用が想定される場面例

大学・高専においては、個々の教育の目的・内容や下記の留意すべき観点等を踏まえ、生成 AI の利活用可否や利活用不可の場面でこれに反した行為を行った際の措置等を含む対応を検討し、学生や教職員に対して適切に示すことが望ましい生成 AI を利活用することが有効と想定される場面としては、例えば、ブレインストーミング、論点の洗い出し、情報収集、文章校正、翻訳やプログラミングの補助等の学生による主体的な学びの補助・支援などが考えられる。この他にも、生成 AI は、今後さらに発展し社会で当たり前に使われるようになることが想定されるという視座に立ち、生成 AI の原理への理解、生成 AI へのプロンプト(質問・作業指示)に関する工夫やそれによる出力の検証、生成 AI の技術的限界の体験等により、生成 AI を使いこなすという観点を教育活動に取り入れることも考えられる。また、上記の学生による利活用以外にも、教員による教材開発や、効果的・効率的な大学事務の運営等に利活用することも考えられる。なお、こうした生成 AI の利活用の取組事例やその際に生じた懸念事項といった新たな知見について教職員間で共有し、適切な利活用を追求することも有効と考えられる。

この段落では生成 AI の利活用が想定される場面例を提示するとともに、生成 AI を使いこなすための教育の重要性が示されています。言うまでもなく、様々な場面において強力な武器となり得る生成 AI ですが、使いこなすことができなければ不正確な解を導いてしまうかもしれません。正しい解を得るためにも、武器として使いこなすための訓練が必要不可欠です。

留意すべき観点

教育面で生成 AI の利活用を検討するにあたり、留意点については以下のとおり示されています。

生成 AI と学修活動との関係性、成績評価

大学・高専における学修は学生が主体的に学ぶことが本質であり、生成 AI の出力をそのまま用いるなど学生自らの手によらずにレポート等の成果物を作成することは、学生自身の学びを深めることに繋がらないため、一般に不適切と考えられること。また、生成 AI の出力に著作物の内容がそのまま含まれていた場合、これに気付かずに当該出力をレポート等に用いると、意図せずとも剽窃に当たる可能性があること。学生がレポート等に生成 AI を利活用した場合には、適切に学修成果を評価するため、利活用した旨や利活用した生成 AI の種類・箇所等を明記させることや、小テストや口述試験等を併用するなど評価方法の工夫を行うことも有効と考えられること。また、AI が生成した文章かを判定するツールを学修成果の評価等に活用する場合でも、その結果を過信しないことが重要であること。なお、利活用や学修成果の評価等に当たっては、生成 AI の種類(有料版か無料版か)により、成果物に差が生まれ得ることにも留意することが重要と考えられること。

生成 AI で作成した文章をそのままレポート等に転用することへの危惧について示されています。ChatGPT 等が作成した文章をそのままレポートとしても学生の学びには一切繋がらないだけでなく、知らないうちに著作権を侵害する恐れがあることの危険性が記されています。
また、教職員としては、学生がChtaGPT の文章を転用するかもしれないという性悪説に立ち、成績評価を工夫することの有効性が示されています。

ここあ
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レポートや卒業論文に ChatGPT の文章をそのまま転用することはNGです!!

生成 AI の技術的限界(生成物の内容に虚偽が含まれている可能性)

大規模言語モデルを活用した生成 AI は、基本的に、ある語句の次に用いられる可能性が確率的に最も高い語句を出力することで、文章を作成していくものであり、AI により生成された内容に虚偽が含まれている又はバイアスがかかっている可能性があること。こうした生成 AI に関する技術的限界を把握した上で、インターネット検索等と同様に、出力された内容の確認・裏付けを行うことが必要と考えられること。

生成 AI の回答は絶対ではないことが念押しされていますね。生成 AI は0から1を生み出す類のものではなく、無数に散らばっている情報から1と思われるものを即座に出力するものですので、意図せず誤った情報を作成してしまう恐れがあります。生成 AI は絶対ではないという視点を忘れず、正しい情報がどうかを常に疑ってかかるという姿勢が必要となります。

機密情報や個人情報の流出・漏洩等の可能性

生成 AI への入力を通じ、機密情報や個人情報等が意図せず流出・漏洩する可能性等があるため、一般的なセキュリティ上の留意点として、機密情報や個人情報等を安易に生成 AI に入力することは避けることが必要と考えられること。なお、特に教職員が生成 AI を利活用する際には、各大学・高専における情報セキュリティに関する指針や、個人情報保護法を踏まえた対応が必要となることに留意すること。また、生成AI の種類によっては、入力の内容を生成 AI の学習に使用させない(オプトアウト)ことができること。

個人情報や機密情報を漏洩リスクについて触れられています。個人情報の取り扱いについては敢えて触れる必要もないかも知れませんが、機密情報や個人情報を安易に入力することは避けなければなりません。

著作権に関する留意点

他人の著作物の利用について、著作権法に定める権利(複製権や公衆送信権等)の対象となる利用(複製やアップロード)を行う場合には、原則として著作権者の許諾が必要となること。AI を利用して生成した文章等の利用により、既存の著作物に係る権利を侵害することのないように留意する必要があること。学校その他の教育機関での授業においては、著作権法第 35 条により許諾なく著作物を複製や公衆送信することができるため、学生や教職員が AI を利用して生成したものが、既存の著作物と同一又は類似のものだったとしても、授業の範囲内で利用することは可能となる。ただし、広くホームページに掲載することなどは、著作権者の許諾が必要となることに留意すること。

著作権に関する留意点がまとめられています。教育機関の授業等においては著作権者の許諾なく使用することができますが、無断でインターネット等で広く公開してはいけません。

ここあ
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令和2年4月にスタートした「授業目的公衆送信補償金制度」との兼ね合いにも要注意です!

各大学の方針等について

続いては、各大学が発表している方針等の抜粋を確認していきましょう!

上智大学

リアクションペーパー、レポート、小論文、学位論文等の課題への取り組みにおいて、ChatGPT 等の AI チャットボットが生成した文章、プログラムソースコード、計算結果等は人が作成したものではないので、使用を認めない。検出ツール等で使用が確認された場合は、本学の不正行為に関する処分規程に則り、厳格な対応を行う。

https://piloti.sophia.ac.jp/assets/uploads/2023/03/27162222/23f430e7f216cbe188652f8a6855c493.pdf

北里大学

講義・実習・研究などの教育研究の場において、各種課題のレポート、学位論文等の作成について、チャットGPT等のAI技術を使ったサービスの利用を禁止します。チャットGPT等を利用して、各種課題のレポート、学位論文等の作成をした場合は、本学の公正な成績評価等を担保するため、不正行為とみなす場合があります。

https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/news/20230414-05.html

中京大学

レポートや学位論文等の作成、課題への取組等において、生成系 AI のみを用いて作成するこ とは禁止する。なお、その使用範囲については授業担当教員の指示に従うこと。

https://www.chukyo-u.ac.jp/student-staff/news/【教員向け】生成系AIへの対応について.pdf

東北学院大学

生成系AIから得られた回答をそのまま自分の成果として提出してはいけません。このような利用方法は皆さんの思考の習慣を奪い、本来の目的である「学び」を大きく妨げます。

https://www.tohoku-gakuin.ac.jp/info/top/230608.html

横浜国立大学

ChatGPTをはじめとする生成系AIに対する懸念点が報告されていますように、少なくとも以下の2点は止めてください。
1.生成系AIのみで論文やレポート等の作成を行うこと
2.個人情報や機密情報等の非公開情報を入力すること

https://www.ynu.ac.jp/hus/kyomu/30060/detail.html
ここあ
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大学ごとに方針は若干異なりますが、生成 AI のみに頼って論文やレポートを作成することを禁止している印象ですね。

大学教育における生成 AI の活用に向けたチェックリスト

令和5年7月18日に一般社団法人日本私立大学連盟が「大学教育における生成 AI の活用に向けたチェックリスト 〔第1版〕」を公表しました。私立大学連盟は AI 技術の進歩が私立大学の特色ある教育を更に進化させる契機になると考え、加盟大学が生成 AI を活用する際の留意事項をチェックリストとしてまとめられたようです。

チェックリストでは、生成 AI を大学教育で活用するために検討すべき項目を「1.全般」「2. 教育」「3.環境・体制整備」の三つのカテゴリーに区分し、優先度の高い順に「第1ステップ: 最優先事項」「第2ステップ:優先事項」として整理されています。また、それぞれのカテゴリーについて【大学が組織的に検討すべき事項】と【教員が個々の工夫で検討すべき事項】を分けて提示されています。

ここあ
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要チェックですね!

おわりに

本日は、ChatGPT 等に代表される生成 AI の教学面における取扱いについて学んでいきました。生成 AI は強力な武器と成り得る一方で、一定のリスクを含んでいます。光と影を理解した上で、教育に利活用したいところですね。そのためにも、まずは職員が率先して生成 AI を理解し、知見を深めていきましょう!

以上、お読みいただきありがとうございました!

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