解説!私立学校法改正法案(2022年5月20日現在)

業界研究
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こんにちは、ここあです。

本日は2022年5月20日付けで文部科学省HPに掲載されました「私立学校法改正法案骨子」について、解説していきます。賛否を呼んでいる学校法人制度改革がどのような形で着地するのか、皆さんが所属する学校法人にどれくらい影響があるのかを一緒に見ていきましょう!

学校法人制度改革のこれまでの経緯については、こちらをご覧ください。

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私立学校法改正法案骨子とは

文部科学省HPに正式に公表された私立学校法改正法案骨子とは、今回の私立学校法改正の要点をまとめたものです。この法案骨子をもとに法制化作業が進められ、新しい私立学校法が施行されます。

改正された私立学校法の施行時期は現時点では未定とされていますが、各法人の負担軽減や運営の継続性を確保する観点から、十分な準備期間を設けることが必要であるという方向性が示されています。

具体的な内容について

それでは、早速ですが、私立学校法改正の骨子を見ていきましょう。
本日は、実際の文部科学省HPに掲載されている骨子を引用しつつ、重要なポイントのみに絞って解説していきます!(引用先:私立学校法改正法案骨子

目的

学校法人における円滑な業務の執行、幅広い関係者の意見の反映、逸脱した業務執行の防止・是正を図るため、理事、監事、評議員及び会計監査人の選任及び解任の手続、理事会及び評議員会の権限及び運営等の学校法人の管理運営に関する規定を整備するとともに、特別背任罪等の罰則について定める。

今回の私立学校法改正は、学校法人の不正を正すことに主眼が置かれています。
2021年秋ごろに有名私大理事長の不祥事が世間を賑わせましたが、このように一部の理事により私立学校が喰い物にされることを防ぐことを主軸にした法改正となります。
文部科学省としても、税制優遇や莫大な補助金が投入されている私立大学の不正に対しては、立場上、是が非でも改善したいという思いがあるのでしょう。

今までは、理事や評議員は理事会で選任し、重要議案は理事会の決議のみで意思決定がなされていましたが、一部の学校法人ではこの仕組みが不正の温床となっていたようです。

基本的な考え方

学校法人の機関設計について、「執行と監視・監督の役割の明確化・分離」の考え方から、各機関の権限分配について、法人の意思決定と業務執行の権限や業務執行に対する監督・監視の権限を明確に整理し、私立学校の特性に応じた形で「建設的な協働と相互けん制」を確立する観点から、必要な法的規律を共通に明確化して定める。

現状の私立学校法においても、「評議員会による諮問」や「監事による理事の業務執行状況の監査」等により理事会への牽制機能は法律上担保されていましたが、今以上に各機関の権限を整理することにより役割の明確化を行うことが基本的な考え方として示されています。

学校法人における意思決定

学校法人の意思決定の権限については、次に掲げる措置その他必要な制度改正を実施する。
1 大臣所轄学校法人における学校法人の基礎的変更に係る事項(任意解散・合併)及び重要な寄附行為の変更について、理事会の決定とともに評議員会の決議(承認)を要することとする。

現状では、寄附行為等の重要事項を審議する場合、評議員会で反対意見が出されたとしても、あくまでも「評議員会は理事会の諮問機関」という位置付けであったため、評議員会の意見を押し切って理事会は議案を承認することができました。しかし、法改正により、たとえ理事会が承認している内容であったとしても、評議員会の承認を得ることができなければ、議案を執行することができません
このように、理事会に集中していた権限を評議員会へと分配することで、理事会・評議員会の相互牽制機能を担保することになります。

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理事・理事会

理事・理事会については、次に掲げる措置その他必要な制度改正を実施する。
理事長の選定及び解職は、理事会において行うこととする。
2 業務に関する重要な決定は理事会で行い、理事に委任することを禁止することとする。
理事の選任を行う機関(以下「選任機関」という。)として評議員会その他の機関を寄附行為で定めることとする。評議員会以外の機関が理事の選任を行う場合、あらかじめ選任機関において評議員会の意見を聴くこととする。
4 理事の解任について、客観的な解任事由(法令違反、職務上の義務違反、心身の故障その他寄附行為で定める事由をいう。以下同じ。)を定め、評議員会は、評議員会以外の選任機関が機能しない場合に解任事由のある理事の解任を当該選任機関に求めたり、監事が機能しない場合に理事の行為の差止請求・責任追及を監事に求めたりすることができることとする。評議員は、これらが機能しない場合に自ら訴訟を提起できることとする。
5 校長理事については、解任事由がある場合に理事としての解任がなされるように措置する。
6 大臣所轄学校法人においては、外部理事の数を引き上げることとする。また、個人立幼稚園などが学校法人化する場合の理事数等の取扱いを定める。
理事の任期は、選任後4年を上限に寄附行為で定める期間内の最終会計年度に関する定時評議員会の終結の時までとし、再任を認めるとともに、理事の任期が監事及び評議員の任期を超えてはならないこととする。
8 理事は、理事会に職務報告をすることとし、知事所轄学校法人については、実情を踏まえた柔軟な取扱いを認めることとする。
9 理事は、理事の立場で評議員会に出席し、必要な説明をすることとする。

まず、理事長を理事会で選任するという仕組みは維持される一方で、理事の選任は、理事会ではなく、「評議員会」や「その他に寄附行為で定めた機関」で行うことになります。
しかしながら、“評議員会以外の機関が理事の選任を行う場合、あらかじめ選任機関において評議員会の意見を聴くこと”という条件がありますので、恐らく多くの法人は評議員会により理事を選任する形で寄附行為を作成するのではないでしょうか。

続いて外部理事の数の引き上げですが、現行では外部理事を1名以上置くことが必須条件となっていますが、今後は高等教育の修学支援新制度の認定条件に倣って2名以上へと引き上げられることになりそうです。
個人的には、理事総数の2分の1以上もしくは3分の1以上を外部理事にして、理事会の中に企業マインド(経営的視点)を強く取り入れた方がいいのではないかと思ったりしていますが、そうすると理事会と教授会の関係性であったり、大学自治の問題に飛び火してしまうのかもしれませんね。

評議員・評議員会

評議員及び評議員会については、次に掲げる措置その他必要な制度改正を実施する。
理事と評議員の兼職を禁止することとする。また、評議員の下限定数は、理事の定数を超える数まで引き下げることとする。
評議員の選任は、評議員会が行うことを基本としつつ、理事・理事会により選任される者の評議員の定数に占める数や割合に一定の上限を設けることとする。
教職員、役員近親者等については、それぞれ評議員の定数に占める数や割合に一定の上限を設けることとする。
4 評議員は、学校の教育研究への理解や法人運営への識見を有する者とする。
評議員の任期は、選任後6年を上限に寄附行為で定める期間内の最終会計年度に関する定時評議員会の終結の時までとし、再任を認める。
6 大臣所轄学校法人の評議員会について、評議員による招集要件の緩和や議題提案権を措置する。
評議員は権限の範囲内において善管注意義務と損害賠償責任を負うことを明確化する。評議員の不正行為や法令違反については、監事による所轄庁・理事会・評議員会への報告や所轄庁による解任勧告の対象に加えることとする。

一番影響が大きい点としては、理事と評議員会の兼任を禁止すること評議員の定数を理事の2倍を超える数から理事の定数を超える数へと引き下げることでしょう。これにより、ただの諮問機関であった評議員会の権限が強化され、理事会の独走を防止する効果が期待されています。
今までは、一部の理事が評議員を兼任している法人は多々あり、理事全員が評議員としても選任される法人は珍しくはありませんでした。評議員会で理事の選任であったり重要な議案を決議するにあたって、評議員会の独立性を担保することが改革の鍵となるため、理事と評議員の兼任を禁止することになったのでしょう。

ここあ
ここあ

理事と評議員が兼任している法人は、学内の規程整備や人材の確保等、速やかに対応すべき事項が増えそうですね。担当部門の職員さん、頑張ってください!泣

また、評議員会が議決権を要することに伴って、理事だけではなく評議員も善管注意義務や損害賠償責任を負うことになります。善管注意義務とは、「理事や評議員として一般的に期待される程度の注意義務」であり、平たく言うと、当たり前にすべきことを当たり前にしてね、というお約束と言えます。
今後は、評議員も理事同様に経営者としての責任が求められることになるため、今まで以上に評議員としていかに優秀な人材を確保するかどうかが法人運営の鍵になりそうです。

監事

監事については、次に掲げる措置その他必要な制度改正を実施する。
監事の選解任は、評議員会の決議によって行うこととする。
役員近親者が監事に就任することを禁止する。
3 監事の解任について、客観的な解任事由を定め、監事は、評議員会において、監事の選解任又は辞任について意見を述べることができることとする。
監事の任期は、選任後6年を上限に寄附行為で定める期間内の最終会計年度に関する定時評議員会の終結の時までとし、理事の任期と同等以上でなければならないこととする。
5 特に規模の大きい大臣所轄学校法人については、監事の一部を常勤化することとする。
6 監事は、評議員会に対する監査報告に限らず、評議員会に出席し意見を述べることとする。

大規模法人における監事の一部常勤化が論点となりそうです。今回の「大規模」の定義がまだ明確になっておりませんが、文部科学省は定員管理として、私立大学においては「4,000人未満を小規模」「4,000人以上8,000人未満を中規模」「8,000人以上を大規模」と定めています。
しかし今回は、大学単独ではなく、法人全体として規模になりますので、今後明確になるであろう大規模の基準によっては、対応を余儀なくされる法人と難を逃れる法人に分かれることになるでしょう。

ここあ
ここあ

本学の場合、大学は中規模に分類されていますが、高校以下の学校も一部設置しているため、法人全体としては大規模に分類される可能性もあります。

おわりに

本日は、私立学校法改正法案骨子に基づいて学校法人制度改革の内容についてお伝えいたしました。

個人的には、今回の学校法人制度改革により、法人の意思決定プロセスが多少複雑化されることによる意思決定スピードの鈍化が気がかりではあります。しかし、現制度が不正の温床になりやすいことも事実です。今回の改革を契機とし、各学校法人が教育機関の役割を再認識するきっかけとなってくれればと思います。

以上、お読みいただきありがとうございました!

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