こんにちは、ここあです。
本日は、令和6年4月から私立大学においても義務化された合理的配慮について詳しく解説していきます。
各大学において、学生支援部署やインクルージョンセンター等が中心となり、合理的配慮の提供に対応されていることかと思います。しかし、担当部署以外の方々にとっては「合理的配慮の義務化」という言葉を耳にしたことはあっても、実際の内容についてはまだ十分に理解できていないことも多いのではないでしょうか。
今回は、私立大学における合理的配慮について一緒に学んでいきましょう!
合理的配慮とは
合理的配慮とは、障害のある学生が他の学生と同様に教育を受ける権利を享受できるように、過度な負担を伴わない範囲で、必要な変更や調整を個別に行うことです。簡単に言うと、障害が原因で学生が不利益を被らないよう、大学と学生が話し合って適切なサポートを提供するというものです。
令和3年5月、「障害者差別解消法」の改正により、すべての事業者に障害者の機会均等を保障する義務が課されました。これに伴い合理的配慮の提供が義務化され、令和6年4月から私立大学もその対象に含まれるようになりました。
障害学生数の推移
日本学生支援機構の調査によると、令和4年5月1日現在、49,672人の障害のある学生が大学等に在籍しており、これは全学生の1.53%に相当します。10年前の平成25年には13,449人、平成28年には27,256人と報告され、この10年間で障害のある学生数は約4倍に増加しています。
また、大学等で支援を受けている障害のある学生は27,121人で、全体の0.84%にあたります。障害のある学生のうち54.6%が何らかの支援を受けており、障害のある学生が在籍する大学等は970校、全大学の82.6%に相当します。
障害種別ごとの内訳は、視覚障害823人、聴覚・言語障害2,005人、肢体不自由1,983人、病弱・虚弱13,529人、発達障害10,288人、精神障害15,787人、その他の障害4,779人です。特に精神障害、発達障害、病弱・虚弱の増加が著しいです。
このように、障害のある学生数の増加に伴い、合理的配慮を必要とする学生数も増加していくことが予想されます。
障害特性別の合理的配慮の例
次に、合理的配慮がどのように行われているか、障害の種別ごとに見ていきましょう。
視覚障害
視覚障害は、視力の低下や視野の制限、視覚情報の処理が困難な状態を指します。視覚障害のある学生は、印刷された教材やスライドなどの視覚的情報を利用するのが難しいため、代替手段が求められます。
<合理的配慮提供の例(視覚障害)>
教材の音声化や点字化、座席を前方に配置、授業スライドの事前配布など
聴覚障害
聴覚障害は、音を聞き取ることが難しい、または不可能な状態を指します。聴覚障害のある学生は、講義や会話など音声情報の理解が困難なため、視覚的な支援が必要です。
<合理的配慮提供の例(聴覚障害)>
手話通訳者やノートテイカーなどの支援者の配置、字幕付き動画の提供、支援機器の貸し出しなど
肢体不自由
肢体不自由は、身体の一部または全体に運動機能の制限がある状態を指します。移動が困難な学生や、長時間座り続けるのが難しい学生には、物理的な環境への配慮が求められます。
<合理的配慮提供の例(肢体不自由)>
車椅子ユーザー向けの教室配置、エレベーターやスロープの整備、移動時間の配慮など
発達障害
発達障害は、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)といった、注意力やコミュニケーション、対人関係などにおいて特定の課題がある状態を指します。発達障害は行動や言動の中で特性が現れることがあるものの見た目では分かりにくく、個人の困難さをどのように解消したらよいか判断が難しい場合も多くあります。
<合理的配慮提供の例(発達障害)>
集団ディスカッションや口頭発表における代替方法の設定、授業の中座や休養の許可、体調不良等による遅刻欠席の代替措置など
精神障害
精神障害は、適応障害や統合失調症など、ストレスや不安などの精神的な問題が日常生活や学業に影響を与える状態を指します。精神的な安定を保つための支援が求められます。
<合理的配慮提供の例(精神障害)>
カウンセリングの実施、授業や試験における柔軟な対応、休養スペースの確保など
病弱・虚弱
病弱・虚弱は、慢性的な病気や体力の低下により、長時間の活動が困難な状態を指します。授業への出席が難しい場合や、体調に波がある学生に対しては、学習環境の柔軟性が重要です。
<合理的配慮提供の例(病弱・虚弱)>
欠席時の授業内容の補完、オンラインでの授業参加、活動制限に応じた授業内容や評価方法の変更など
障害の種別により、求められる合理的配慮の内容が異なっていますね!
合理的配慮として提供できないこと
合理的配慮の提供にあたっては、学生と大学側の建設的な対話によって、合理的に調整された個別的な対応や支援を大学における合理的配慮として提供します。一方で、教育の目的・内容・評価の本質を変更しないことが原則であり、障害のある学生の単位取得や卒業を保証する制度ではありません。
したがって、次のような内容は基本的に合理的配慮として認められません。
プレゼンテーション法の授業においては対面でのプレゼンテーションが評価基準となるが、プレゼンテーションではなくレポートによる代替措置を、合理的配慮として学生が求めた。
→この場合、授業評価の本質が変わってしまうため、学生が希望する合理的配慮の提供が難しい。
障害があれば何でも認められるという制度ではないんだね!
おわりに
本日は、私立大学における合理的配慮についてお伝えしました。
合理的配慮は、障害のある学生が公平に学び、充実した学生生活を送るために必要なサポートであり、学問の機会を平等に保障するための重要な手段です。紹介したように、視覚、聴覚、肢体不自由、発達障害、精神障害、病弱・虚弱といった障害ごとに求められる支援だけでなく、個々の学生に合わせた柔軟で具体的な対応が不可欠です。
合理的配慮が義務化された背景には障害者差別解消法の改正があり、日本がインクルーシブな社会を目指していることを示しています。大学は教育を提供する場であると同時に、学生が自己実現を図り、社会へ羽ばたくためのステップを提供する場でもあります。そのため、合理的配慮を通じて障害のある学生が学業に専念できる環境を整えることは、社会全体の包容力や多様性を尊重する姿勢に直結します。
また、合理的配慮の実施には、大学側のリソースや体制の確保が大きな課題です。合理的配慮の例からも分かるように、物理的な設備の改善だけでなく、手話通訳者やノートテイクの支援、カウンセリングの充実など、人的リソースや技術的な対応が不可欠です。このため、大学だけでなく、支援機関や専門家との連携も重要となります。
合理的配慮は単なる「義務」で終わるものではなく、すべての学生が自分らしく学べる環境を提供するための重要な一歩です。インクルーシブで多様性を尊重する大学は、学生がそれぞれの個性や強みを発揮し、未来への可能性を広げていける場所となるでしょう。合理的配慮の重要性を理解し、共に支え合いながら成長していく環境づくりを目指すためにも、すべての教育機関関係者が合理的配慮について正しい理解を深め、具体的な取り組みを進めていくことが求められています。
所属部署や担当業務内容に関わらず、教職員一人ひとりが合理的配慮を正しく理解することが大切ですね!
以上、お読みいただきありがとうございました!