こんにちは、ここあです。
本日は、大学設置基準の改正により「専任教員」に代わって新たに設けられる「基幹教員」について解説していきます。
基幹教員制度の導入により、私立大学にはどのような影響があるのでしょうか。一緒に勉強していきましょう!
最近、法改正が多すぎます~!笑
現状(専任教員)について
基幹教員について勉強する前に、まずは現状の専任教員について見ていきましょう。
「専任教員」は現行の大学設置基準第十二条に次のように示されています。
大学設置基準
第十二条 教員は、一の大学に限り、専任教員となるものとする。
2 専任教員は、専ら前項の大学における教育研究に従事するものとする。
3 前項の規定にかかわらず、大学は、教育研究上特に必要があり、かつ、当該大学における教育研究の遂行に支障がないと認められる場合には、当該大学における教育研究以外の業務に従事する者を、当該大学の専任教員とすることができる。
要するに、大学教員は「一つの大学(学部)にのみ所属し、教育研究に専念する」というものです。
著名な大学教員は、A大学教授(専任教員)という肩書以外にも、B大学名誉教授やC大学名誉顧問、学校法人D理事といった形で肩書は複数持つことができますが、専任教員として所属できるのは1つの大学のみとされています。
大学の教育は専任教員が中心となって行っていきますが、専任教員だけでは大学の講義を担当できない部分があるため、他大学の専任教員等を非常勤講師として雇用し、大学の教育を維持しています。
また、現在の大学設置基準には、教員の職位として、教授、准教授、講師、助教、助手が定められています。
本学では、教授、准教授及び講師を「専任教員」としてカウントしています!
基幹教員について
それでは、基幹教員の導入により、専任教員制度からどのように変化するのかを見ていきましょう。
一人の教員が、複数の大学や学部において「基幹教員」として所属できる
「一の大学に限る」という「専任教員」の概念が「基幹教員」と改められることで、設置基準上最低限必要な教員の数の算定にあたり一定以上の授業科目を担当する常勤以外の教員についても、一定の範囲まで算入することが認められるようになります。
今までは専任教員として一つの大学にしか所属することができませんでした。
しかし、今回の法改正により、主要授業科目については基幹教員が担当することになるものの、需要が多い教育分野の教員等は基幹教員として複数の大学に所属することが可能となります。
基幹教員の要件
次に、基幹教員となるための要件を、場面ごとに見ていきましょう。
常勤の基幹教員(専従)
常勤の教員が1つの大学で1つの学部の基幹教員になる場合は、
・教育課程の編成その他の学部の運営について責任を担うこと
・当該教育課程に係る主要授業科目を担当すること
が条件となります。なお、科目単位数の下限は設けられていません。
「教育課程の編成その他の学部の運営について責任を担うこと」とは、「各大学等が設置する教授会や教務委員会等の、教育課程の編成や学生の入学、卒業及び課程の修了、学位の授与等についての審議を行う会議に、構成員として直接的かつ実質的に参画すること」を指しています。
「当該教育課程に係る主要授業科目を担当すること」とは、文字通り、学部の専攻科目の講義を担当することで要件を満たすでしょう。
”常勤の教員が1つの大学で1つの学部の基幹教員になる場合”については、現状の専任教員と位置付けがあまり変わらず、多くの教員がこのパターンに当てはまることになります。
常勤の基幹教員(兼務)
常勤の教員が1つの大学で複数の学部の基幹教員になる場合は、
・各学部において、教育課程の編成その他の学部の運営について責任を担うこと
・各学部において、当該教育課程に係る主要授業科目を“8単位以上”担当すること
が条件となり、
設置基準上、最低限必要な基幹教員数の4分の1までカウントできます。
常勤の教員が1つの大学で1つの学部の基幹教員になる場合とは異なり、「主要授業科目を8単位以上担当すること」が要件とされています。
これは、教育の質を担保するため、授業をもたない教員が基幹教員として教員定数に算入されることを防ぐためでしょう。
また、複数の学部で基幹教員になることができるとは言え、それぞれの学部等で教育課程の編成等の責任を担うことが必須になります。
非常勤の基幹教員
非常勤の教員が基幹教員になる場合は、
・教育課程の編成その他の学部の運営について責任を担うこと
・当該教育課程に係る主要授業科目を“8単位以上”担当すること
が条件となり、
設置基準上、最低限必要な基幹教員数の4分の1までカウントできます。
非常勤の教員が基幹教員となる場合にも、教育の質を担保するため「主要授業科目を8単位以上担当すること」が要件とされています。
基幹教員の算定
「常勤の基幹教員(兼務)」及び「非常勤の基幹教員」については、最低限必要な基幹教員数の4分の1までカウントできますが、それぞれ4分の1づつカウントできるわけではありません。
全体として「常勤の基幹教員(専従)」が全体の4分の3以上必要とされており、残りの4分の1未満が「常勤の基幹教員(兼務)」及び「非常勤の基幹教員」でも算定可能というわけです。
期待される効果・懸念点
最後に、基幹教員制度の導入により期待される効果と懸念点をそれぞれ見ていきましょう。
期待される効果
教員・研究の流動性向上
教員が複数の大学に所属できることにより、需要が多い教育分野の教員等は複数の大学に所属することができるようになるため、先進的な教育が多くの大学で共有されることになります。
また、民間からの教員登用の促進等の観点からも、実践的な学修を実現する機会の提供が増えるかもしれません。
人件費の削減
非常勤であっても基幹教員として算出することができるため、今までは専任教員として算出していた教員も今後は基幹教員(非常勤)でも対応が可能となり、大学全体としては教員人件費の削減に繋がります。
懸念点
常勤教員の負担増加
教員組織全体で4分の1を上限に基幹教員(兼務・非常勤)で構成されることになるため、専従する常勤教員に今以上の負担が掛かることになります。基幹教員(専従)と基幹教員(兼務・非常勤)は同じ基幹教員とはいえ、重要な業務や役職位等は専従の基幹教員が対応することになるでしょうし、負担増を避けることができないと思われます。
非常勤教員の負担増加
上記とは逆の考えになりますが、待遇面は現状のままで非常勤教員の負担が増加する恐れがあります。今までは、専任教員と非常勤教員という明確な立場・役割の違いがありましたが、今後は「基幹教員」として同じ立ち位置になることから、非常勤であったとしても、専従する基幹教員と同様の業務が求められることになりそうです。
非常勤教員の常勤転換が難化
常勤教員の枠が減ることにより、非常勤教員が常勤化することへの難易度が高まることが予想されます。特に既存領域の専門については、今以上に需要が低下するでしょう。
おわりに
本日は、大学設置基準の改正により「専任教員」に代わって新たに設けられる「基幹教員」について解説いたしました。
本制度ですが、個人的には、「専従する教員数が減少することに伴う教員の負担増加」→「教員の負担増加に伴う研究時間減少」→「研究時間減少に伴う研究力低下」といった負のスパイラルに陥るのではないかという不安や、人件費削減の手段として悪用されないかといった懸念を抱いています。
また、早ければ2022年度内に法改正が行われるとのことで、各大学が準備不足のままで制度導入を迎える恐れもあります。
しかし、法改正の趣旨は十分に理解できます。大切なことは、制度趣旨に則って各大学が改革を進めていくことなのかもしれません。
以上、お読みいただきありがとうございました!